インド競争法(2) 反競争的協定の禁止― インドでは談合も許される?

顧客と会議室

はじめに

あなたの会社もインドに積極果敢に進出し、インドのパートナーと一緒に仕事をしていますね。
でもその際に、インド競争法について気を付けていますか。

気を付けていないと思わぬ落とし穴にはまり、高額の課徴金を支払わされることにもなりかねません。

今日のテーマは「インドでは談合も許されるか?」です。

結論:インドでも談合は許されない

もちろん日本同様、インドでも談合は許されません。

インドにも日本の独占禁止法と同様に、インド競争法という競争を制限する行為を無効にする法律があり、
それに抵触する場合には高額の罰金が科されます。

結論の理由・根拠:インドの競争法上談合(カルテル)は禁止されている

これから私たちが実際に受けたご相談をもとに、インドの競争法について具体的に説明をしてゆきたいと思います。

ただ、個別の案件については、事案に即したインドの弁護士にも相談をする必要があります。
私共の事務所は、インド最大、最古の事務所と戦略的に提携しており、常に最新の情報を入手することができます。

必要があれば、どうぞお気軽にご相談ください。

インドの競争法(反競争的協定の禁止)

反競争的協定

昨年末、顧問先のセメント会社のF社長から連絡があった。

「先生、お元気ですか。」

「はい。相変わらず、忙しくやっています。」

「儲かってるんだね。」

「いえ、世の中にはお困りごとを抱えた会社が多いようです。」

「ふーん。うちも困っていてね。」

「はあ。どうされましたか。」

「先生は、うちのインドの合弁会社を訪問したことはあるよね。」

「はい。何度か。いつも国際線でデリーに入り、そこから国内線でコルカタに飛んで、あとは工場までプライベートジェットでしたね。」

「そうそう。そこだよ。」

「どうしました。」

「うん。うちの提携先のインドの会社が、ちょっと景気がわるくてね。うちとつるんで一儲けをしたいって言っているんだ。」

「はあ。一緒にお金を儲けようとして、合弁会社を始めたわけですから、何もお困りになることはないのでは。」

「それはそうなんだけど、ちょっと話がキナ臭くてね。」

「はあ。社長は鼻が利きましたっけ。」

「先生、失礼なことは言いっこなしだよ。
実はうちの提携先の社長から、そことうちの合弁会社の社長で、うちの会社の社員の日本人のところに連絡があってね。」

「はあ。」

「インドの会社と合弁会社が一緒になって、毎月のセメントの生産量を半分にしてね。」

「はあ。」

「その分セメントの需要を高めて、一緒にセメントの価格を二倍にして儲けようというんだよ。大丈夫?」

「ええ、そんなことを持ち掛けてきたんですか。」

「うん。」

「社長、それは日本でも問題ですよね。」

「あ、そうだっけ。」

「社長、冗談はやめてくださいね。また公取に行くのはもう御免ですよ。」

「冗談、冗談。だからインドでも危ないんじゃないかと思って、先生に相談してるんだよ。」

「よかった。もちろん、インドでもインド競争法違反の問題になります。」

「ええ。そうなんだ。うちの社員の合弁会社の社長は、インドは発展途上国だから、日本の独禁法なんかないんじゃないか、っていうんだけど。」

「とんでもない。10年前ならいざ知らず、2009年5月には、談合のような反競争規定の禁止(インド競争法3条)が施行され、インド競争委員会によって厳しく取り締まられています。」

「ふーんそうなんだ。具体的にはどんな風に取り締まられてるの。日本と同じ?」

「そうですね。日本の独禁法は米国の反トラスト法を輸入したものですが、インドの競争法はEUの競争法をベースにしているので、少し違いますね。」。

「例えば。」

「そうですね。インド競争法3条1項によれば、反競争的協定は次のように定義されています。

企業もしくはその集団または個人もしくはその集団が、インド国内における競争に相当の悪影響(an appreciable adverse effect on competition in India)を及ぼすか、またはそのおそれがある協定を物品の生産、供給、流通、保管、取得、管理またはサービスの締結に関して行うことをさします。インド競争法3条(2)項によれば、反競争的協定は無効です。

インド国内における競争に相当の悪影響(an appreciable adverse effect on competition in India)を及ぼすか、という効果の点に着目してるのが、EU型の競争法の特徴です。」

「ふーん。その協定は書面によるものに限るの。」

「インド競争法上、明文の規定があるわけではありませんが、インド競争委員会の出しているFAQによれば、協定は書面によらず、次のものをすべて含むとしています。
すなわち、正式のものか、書面によるか、法的手続による執行可能なものであるかを問わず、ありとあらゆる取り決め、合意または共同行為。」

「なるほど。それじゃ、インドの提携先と合弁会社の社長同士の口約束も含まれるんだ。」

「はい。それもインドの反競争的協定に該当します。」

「ふーん。」

水平的協定と垂直的協定

「さらに、インド競争法は、反競争的協定を水平的協定と垂直的協定に分けて、定義しています(インド競争法3条3項及び4項)。」

「水平的競争って何だい。」

「はい。水平的協定とは、流通における同じレベルの業者間(製造業者同士、販売業者同士など)の協定をいいます。

インド競争法3条3項は、以下のような水平的協定は、競争に相当の悪影響を及ぼすと推定しています(shall be presumed to have an appreciable adverse effect on competition)。

  1. 直接または間接に購買価格または販売価格を決定するもの
  2. 生産、供給、市場、技術開発、投資またはサービスの提供を制限または統制するもの
  3. 市場の地域別エリア、物品もしくはサービスの種類または顧客の分割等の方法により、市場または生産元もしくはサービスの提供元を分割するもの
  4. 直接的または間接的に不正入札または入札談合をもたらすもの

「なるほど。垂直的協定っていうと。」

「はい。垂直的協定とは、流通における上流・下流間の契約(製造業者と卸売業者間、卸売業者と小売業者間等)をいいます。

一般に水平的協定に比べ、競争を制限する恐れは低いといわれています。

インド競争法3条4項によれば、以下のような垂直的協定は、インドにおける競争に相当の悪影響を及ぼす、またはその恐れがある場合には禁止されるとしています。しかし、水平協定の場合と異なり、競争に対する協定の悪影響の存在を推定する規定は存在しません。」

  1. 抱き合わせ
  2. 排他的供給契約
  3. 排他的流通契約
  4. 取引拒絶
  5. 再販売価格維持

「ふーん、うちとインドの提携先の間の話だと、どっちになるの。」

「そうですね、いずれもインドにおけるセメント業者ですので、さっき上げた例のうちの水平的協定ですね。
生産を制限するという点では(2)の、価格を吊り上げるという意味では、(1)の水平的協定ですね。」

「そうすると、インド法上はどうなるの。」

「はい。水平的協定ですので、競争に相当の悪影響を及ぼすと推定されます。反証を挙げられなければ無効となります。」

 

排除命令と課徴金

「罰金も科されるの。」

「はい。このような場合、まずインド競争委員会は調査のうえ、協定に基づく行為を停止するように命じます(インド競争法27条、排除命令)。
この命令に従わない場合、インド競争法42条3項により、カルテルの実施機関における各年の収益の3倍か、直近3年間の平均売上高の10%相当額のいずれか高い方の額の制裁金が科されます。

「実際に課された例もあるの?」

「はい。2012年6月20日に、インドの11社のセメント業者間のカルテルに関して、インド競争委員会は、11社の直近3年間の収益の0.5倍の総額約630億ルピー(約1070億円)もの高額の制裁金を課しています。」

「ふーん。インド競争法おそるべしだね。」

「はい。」

インド競争委員会の排除基準

「ところで、インド競争委員会っていうのは、日本の公正取引委員会のようなものなの。」

「そうです。2002年インド競争法に基づき、2003年10月に設立され、2009年11月から反競争法協定を取締っています。」

「ふーん。どんな場合がカルテル該当するといわれるの。」

「そうですね。協定が競争に相当の悪影響を及ぼすものであるか否かを判断する際に考慮すべき要素 としては、次のようなものがあげられます。」

  1. 新規市場参入者に対する障壁の設定
  2. 既存の競合事業者の市場からの排除
  3. 市場参入の妨害による競争の排除

((1)(2)(3)は、マイナス面の大きさ・程度を考慮するといわれます。)

  1. 消費者に対する利益の発生
  2. 物品の生産、流通またはサービス提供の改善
  3. 物品の生産、流通またはサービス提供による技術的、科学的および経済的発展の促進

((4)(5)(6)は、正当化事由を考慮するものと言われます。)

「うちの場合は。」

「もともと水平的協定ですので、競争に相当の悪影響を及ぼすと推定されます。
上の(4)(5)(6)の正当化事由もないので、反競争的協定(カルテル)に該当すると認定される可能性は高いと思います。」

「それはそうだね。インド競争委員会は厳しく摘発するの。」

「そうですね。最近は積極的で、厳格化しているといわれます。セメントカルテルのように、制裁金も高額化しているといわれます。」

「わかった。先生に相談をしてよかった。
うちの社員の言うことなど真に受けず、インドの競争法に違反し、インド競争委員会から厳しい罰金を科されないよう気を付けるよ。
また現地の法律について相談に乗ってください。」

「はい。いつでもどうぞ。」

再結論

インドにおいても談合(カルテル)は禁止されます。

発展途上国と言われるインドにおいても2002年、EU競争法に基づく、インド競争法が制定され、2003年には日本の公正取引委員会に相当するインド競争委員会が設立されています。

2009年には談合(カルテル)などの反競争的協定が禁止されることになり、インド国内における競争に相当の悪影響を及ぼすか、そのおそれのある協定は無効とされています。
とりわけ、同業者間の水平的協定の場合、競争に相当の悪影響を及ぼすことが推定されます。

反競争的協定が存在すると認定された場合、その継続が禁止されます(排除命令)。
排除命令に従わなかった場合、談合(カルテル)の場合、実施機関における各年の収益の3倍か直近3年の平均売上高の10%相当額のいずれか高い額の制裁金が科されます。

このインド競争法について、インド競争委員会も積極的かつ、厳格に取締をしています。

インド競争委員会による課徴金の額も高額化しています。

インドにおいて活躍する日本企業の方も、現地の企業からの甘いささやきを真に受けて、談合(カルテル)などにかかわると、高額の課徴金を課され、場合によってはインドからの撤退の憂き目にあいかねません。インドの競争法については細心の注意を払う必要があります。

我々の事務所は、インド最大、最古の弁護士事務所と提携をしており、目まぐるしく変わるインドの競争法及び実務について、あなたの会社の実情に即した、適切な法的アドバイスを提供することが可能です。
必要に応じていつでもご照会ください。ご連絡をお待ち申し上げます。

原口総合法律事務所インド進出企業法務顧問室
インド進出企業の守護神
弁護士 原口 薫

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