インド子会社との取引の税務リスク~インド進出成功術(5)

インド進出企業の守護神、経験30年の国際弁護士原口です。

 

五日目の今日は、インド子会社との取引のリスク、

すなわち、インドの移転価格税制の落とし穴についてお話します。

はじめに

 

日本企業がインドに進出する場合、

インドに子会社を設立することによって、

子会社の経営権を握っていることが少なくありません。

このような場合、

日本企業はインド子会社に対して金銭の貸し付けを行ったり、

技術を提供したとしても、

インドの子会社に資金や技術を流用される恐れは高くありません。

 

ではインド子会社がインドで製造した製品を著しく安い価格で

あなたの会社に販売させてもよいのでしょうか。

 

いいえ。

 

この場合には、インドの税務当局から、

合理的な価格と著しく安い価格との差額について、

税金の支払いを求められてしまいます。

 

これを移転価格税制の問題といいます。

 

 

移転価格税制

 

例えば、あなたの会社のインド子会社が現地の安い人件費を利用して、

100万円のコストをかけて、製品を製造したとします。

その製品をインド国内の全くの第三者に販売をする場合、

インドの子会社は150万円で

販売をすることができ、差額の50万円の利益に対して、

50%の税金、25万円をインドでおさめなければならないとします。

 

その製品を仮にあなたの会社が、100万円で購入したとします。

その場合、

インド子会社は100万円で製造した製品を100万円で販売するのですから、

一円の利益もなく、税金もインドでは一円も払わなくてよいことになります。

しかし、そのあなたの会社がインド子会社から購入した製品を日本で150万円で

売却をしたとします。

 

この場合あなたの会社は50万の利益を得たことになります。

仮に日本の税金が50%であるとすると、

25万円の税金を日本で支払うことになります。

確かにあなたの会社とインド子会社は、

ある意味で経済的に一体とみることが可能なので、

両社は、どこで利益を上げて、どこで税金を支払っても、

一緒といえましょう。

ましてあなたの会社としては、

なるべく多くの税金を日本で支払い、

その税金を使ってあなたが通勤する

日本の道路やあなたのお子様が通う学校が

整備された方が良いに決まっています。

 

しかし、

このような税金逃れをされるとインド政府としてはたまったものではありません。

そこで、インドの税制上、このような場合、

あなたの会社とインド子会社の間の売買は、

インド子会社がインド国内の第三者との売買の際に

支払ってもらう金額である150万円とみなします。

 

そしてインドの子会社に対して売買代金(とみなされた価格)と

コストの差額の50万円の利益があったとして、

25万円の税金(税率50%とする)の支払いを求めてきます。

 

 

インドの移転価格税制の特徴

 

このような移転価格税制はインドに特有のものではなく、

日本や欧米にも存在します。

89年間もの長きにわたり、

英国の植民地にあったインドも税制も英国流であり、

2001年4月1日から、移転価格税制を導入しています。

 

ただ、インドに特有の考えとして、

ロケーション・セービングという考えがあります。

ここで言うロケーション・セービングとは、安価な労働力等によって、

軽減される人件費などを言います。

インドでは、

日本企業などの外国企業のインド進出は安価な人件費等の目的に

基づくものだと考えています。

そのうえで、製品の輸出入取引(バリューチェーン)全体の利益をインドでも

認識すべきだと考えるのです。

 

先の例でいえば、本来インドで支払われるべき税金が日本で支払われている場合、

その税金はインドでも支払われるべきであるという主張が

このロケーション・セービングという考えです。

 

 

インドの税務当局の税収とそのリスク

 

最近の傾向として、税務当局は日本企業などに対して、

厳しく移転価格税制を適用する傾向にあります。

突然税務署が現れて、税金を徴収するのです。

 

この場合、税金の支払い自体を争うと、

税務署から差し押さえられる危険もありますので、

とりあえず、税務署の言う通りの税金を支払い、

後に税金の還付を求めることになります。

そして、税務署との意見が合わない場合には、

税務訴訟によって取り戻すことになりますが、

既に述べたとおり、インドでの訴訟を行う場合には、

解決までに20年近くもかかることが少なくなく、勝訴する前に、

あなたのインド子会社の経営自体が破綻してしまうこともあります。

 

これがインドの子会社と取引をする場合の落とし穴なのです。

 

 

最後に

 

インドでは若く、技術に強い人材を、

日本の10分の1の賃金で採用することが可能です。

日本の技術と資金を導入し、

インドで良いものを安く作り、13億のインド市場や

中東、アフリカに輸出して、大きな利益を上げることも可能です。

 

しかし、インドにあなたの会社の子会社を設立し、

インドで生産した安くて良いものを、

日本に輸入して高く販売をすると落とし穴があります。

あなたの会社とあなたの会社のインド子会社の間の製品の売買価格を、

あなたの会社のインド子会社が第三者に売却する場合と比べて、

著しく安い価格で販売をすることは危険です。

 

その場合、あなたのインド子会社は

インドで大きな税金を支払わなければならなくなります。

あなたの会社のインド子会社が、

第三者に販売する価格とあなたの会社に販売した価格との差額について、

インドで利益が発生したとみなされてしまうからです。

 

どうですか。

 

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