インド人の解雇の際のリスク~インド進出成功術(6)

インド進出企業の守護神、経験30年の国際弁護士原口です。
今回の第6回目のブログでは、インドでは労働者を簡単には解雇出来ないというリスクについてお話します。

はじめに

あなたの会社がインド進出を考えるとき、インドの一番の魅力はなんでしょうか。
それはインドの若くて優秀な労働者を、日本の10分の1の賃金で雇えることではないでしょうか。
もしかするとあなたの会社は、インドで子会社を設立し、沢山の労働者を雇い、あなたの会社の資金と技術を用いて、良いものを安く生産し、13億のインド市場で売却し、大成功することを夢見ておられるのかもしれません。

しかし、インド人の労働者の適性を見抜くことは簡単ではありません。不良な労働者を雇ってしまうこともあります。
その労働者が他の労働者にセクハラやパワハラをし、あなたの工場の環境を劣化させてしまうかもしれません。放っておくと、他の優秀な労働者が逃げ出してしまうかもしれません。

当然あなたの会社の子会社の生産性はガタ落ちになります。
このような場合、その労働者の首を切れるのでしょうか。

答えは否です。

少なくとも、相当に困難といわざるを得ません。
これがインドにおける落とし穴、すなわち労働者の解雇のリスクです。

インドにおける労働者の解雇

これまでお話をしてきたように、インドは独立まで89年間も英国の植民地であり、インドの法律は英国法の影響を強く受けています。英国法と同一といってもよいくらいです。

しかし、1947年の独立後、インドはソ連のような共産主義諸国にも、アメリカのような自由主義諸国にも属しない、独自の社会主義国家を目指します。

その結果、英国のような自由主義を基本とする労働法とは異なり、労働者を強く保護する労働法制度を導入し、実務でも労働者の保護に強く傾く判断が下されるようになっています。インドでは、ノンワークマンと呼ばれる管理者的立場にあるような労働者を除く、ワークマンの解雇は非常に困難です。とりわけ、100人以上(州によっては50人以上)のワークマンを要する工場等で、スタンディング・オーダーと呼ばれる就業規則を作成する必要のある場合には、懲戒解雇をすることは実務上、非常に困難です。

労働者をセクハラやパワハラを理由に懲戒解雇すると、解雇された労働者が、すぐに労働審判と呼ばれる手続が比較的簡単な訴えを提起してきます。この労働審判手続きは、日本の労働審判のように3回で終了するものと異なり、非常に時間がかかるものです。

それだけではなく、労働審判官が、いつも懲戒解雇された労働者に有利な審判を下すのです。
これはインド人の会社が、労働者を解雇する場合でも同様です。
まして、使用者側があなたの会社の子会社のように、日系企業である場合、インド人の解雇に関して、あなたの会社に有利な審判が下されることはありません。結果として、インド人が殺人や強姦などの犯罪をおかしたような極端な場合を除き、懲戒解雇は事実上不可能といっても過言ではありません。

ただ、これまでお話をしてきたように、インドは契約社会です。
インド人との雇用契約で、雇用期間を定めた場合、雇用期間の満了による解雇、すなわち普通解雇は比較的認められやすいといえましょう。そこで、100人以上のワークマンを雇用する日系企業では、契約で雇用期間を定め、問題のある社員は雇用期間の終了時に、契約の更新をしないことにしている場合が少なくありません。

それでは契約で雇用期間を定めさえすれば、問題のある社員を普通解雇することは常に可能なのでしょうか。

答えは否です。

ここに、インドのワークマンの雇用の落とし穴があります。

有期雇用の期間満了による普通解雇の制限

インドでは、雇用期間を極めて短期とし、何度も更新を繰り返して、更新を拒絶して普通解雇した場合には、実質的な懲戒解雇と判断し、解雇が無効となる可能性が高く存在します。

無効な普通解雇

以上に述べたように、インドでは、一部の管理職を除き、労働者の解雇は難しく、とりわけ従業員100人を超える工場の労働者の懲戒解雇は事実上できない、或いは極めて難しいといえましょう。

とはいえ、業務命令を無視したり、セクハラやパワハラを行ったり、ひいては犯罪行為を行う労働者も存在します。このような労働者を会社においておくことはできません。

そこで、会社の一つの自己防衛策として、労働者の雇用期間を契約で定め、雇用期間の満了の際に、契約の更新をしないという手段がよく用いられています。これは契約社会であるインドでは有効な手段です。

労働者が同意した以上、契約の期間が満了すれば契約は終了するのが原則です。バンガロールのあるカルタナカ州など一部の州を除き、会社が契約更新期間を更新しないことについて、何らかの正当な理由が必要とは解されていません。

しかし、それをいいことに、会社が雇用期間を例えば1年とし、毎年更新することとしていた場合はどうでしょう。契約の更新が1度か2度であればともかく、10回も20回も更新をしていた場合はどうでしょうか。

このような場合には、労働者が実際に、業務命令違反、セクハラ、パワハラ等をしたのだから、契約期間は満了したのだから、これで終わりです、
さようなら、といえば済むのでしょうか。

答えは否です。

このような場合、普通解雇された労働者は当然に、労働審判を申し立てます。
そしてこのような場合には、労働審判官から、契約は実質的には期限の定めのない契約であり、契約の期間の満了による普通解雇は、実質的には懲戒解雇であると判断される可能性が極めて高いと言わざるをえません。

インドは契約社会であるからと言って、契約で雇用期間を定めれば、どんなに短期でもよく、何度更新してもよいと考えるのはあさはかです。

最後に

インドでは、ノンワークマンと呼ばれる一部の管理職を除き、普通の労働者(ワークマンといわれる)を懲戒解雇することは極めて難しいといわれます。

特に、100人以上の労働者を雇用し、スタンディング・オーダーといわれる就業規則の作成が必要とされる工場などにおいては、仮に労働者が業務命令に反したとしても、そのことを理由に労働者を懲戒解雇することは事実上不可能です。

このような場合、インドが契約社会であることを盾にとって、契約で雇用期間を定めることがよくあります。契約期間が満了したから出て行ってくれ、という論理です。

しかし、この論理も、契約期間が極めて短期で、更新が何度も繰り返されている場合には通用しないといえましょう。

実質的には期間が定められていない、解雇は懲戒解雇で、無効だと言われる可能性が高いからです。インド人労働者を簡単に解雇することは不可能です。ここにインド進出企業の落とし穴があるといえましょう。

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原口総合法律事務所インド進出企業法務顧問室
インド進出企業の守護神
弁護士 原口 薫

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